2012年3月10日土曜日

新iPadが 期待外れではない理由。

 第3世代となる 新型iPadが発表された。形状デザインは、従来のiPad2と殆ど変わらない。斬新な形状デザインやミニiPadの登場、驚愕の新機能を期待していた消費者にとっては、肩透かしだったかもしれない。しかし私は、画面サイズを変更しなかったことにこそ、アップルの凄みを感じるのである。

  形状デザインや画面サイズを変更しない理由には、コストの問題もあるだろう。形状デザインをガラリと変更すれば、工場の生産ラインも一気に変更しなければならない。それはコストの増大に直結する。しかし、画面サイズを変更しない事に大きなメリットがある。アプリの開発者に過剰な負担をかけなくてすむのだ。

 もしiPadの画面サイズを変更されたら、世界中のアプリ開発者はどうなるのか。新しい画面サイズに合わせて各々のアプリの画面デザインを変更しなければならない。アプリの操作画面のボタン配置などは、現状の画面サイズに最適化させて、レイアウトしているからだ。もし画面サイズの変更が大幅でなくても、レイアウト調整は必要になる。既存の全アプリで、それらの作業を実施する事は、大変な労力を必要とする。アプリのアップデートにも、相当な時間を必要とするだろう。それは、アプリのユーザーにとっても不幸な事だ。

 アップルがデバイスだけを扱う企業であったら、躊躇なく形状デザインを変更するかもしれない。そうしなければ新製品の存在意義が薄れるだろう。しかしアップルは、オペレーティング・システムも、デバイスも、開発ツールもアプリの配信システムもトータルで扱う企業である。アップルが売っているのは、これらの要素全体が生み出す「体験」なので、 全体を俯瞰して戦略を立てる事が出来る。

 アップルがiPadの画面サイズを変更しないことに、アプリ開発者への独特の配慮が感じられる。アップルとアプリ開発者の協働によって、新しい体験価値を創り出そうとする強い意志を感じるのである。今回の新型iPadの発表に合わせて、オペレーティング・システムのiOS、そしてアプリ開発ツールのXCODEもヴァージョン・アップされた。デバイスの外面的な形状デザインを変更しなくても、操作性やアプリ開発の効率化という奥深い部分で改訂を進めている。

 デバイスの形状デザイン変化は、消費者に伝わり易い。 外見を見た瞬間に、全てが分かる。しかし OSや開発ツールの変化は、消費者に伝わりにくい。外見だけでは実体が分からず、使ってみないと実感がわかない。今回、ディスプレイの解像度が著しく向上した事は、とてつもない効果をアプリにもたらすだろう。でも、それが直ちに目に見える形で現れる訳ではない。アプリ開発者が、改訂版のOSや開発ツールで新しいアプリを創り出すのを待たなければならない。それには、今しばらく時間を必要とする。

  次回は、そもそもiPadが、なぜ現在の画面サイズになったのかを考察してみたいと思う。

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