2012年3月29日木曜日

新iPad Wi-Fi, 発熱, 充電 etc. 不具合検証の報告。

 新iPadが手元に届いてから、およそ2週間。新iPad(第3世代)を購入するか検討している方の為に、私個人の使用感をレポートしたい。御参考にしていただけたら幸いである。最近、話題となっているWi-Fi、発熱等の不具合についてのレポートである。<新iPad(第3世代)Wi-Fiモデル 32GB 使用>

Wi-Fi強度問題
 新iPadは、Wi-Fi接続感度が旧モデルより落ちるという報告があるようだ。私は自宅でAir Mac Expressにより無線LAN接続している。今の所、全く問題はない。元々初代iPadの時から、iPhoneに比べれば接続感度が弱かった。Air Mac Expressから数メートル離れた別の部屋にいると感度が落ちたし、電子レンジの使用中にWi-Fi接続出来なくなる。iPhoneでは、この様な事はなかった。しかし新iPadが、旧iPadと比べて著しく接続感度が落ちるような事はない。逆に言えば、旧iPadと同じ様に接続感度が弱い。もしWi-Fi接続感度が酷く落ちているならば、やはり不良品かもしれない。私はiMacを使用しているが、初期不良で交換してもらった経験がある。納品された当日、起動させても液晶ディスプレイが真っ暗のままになった。ディスプレイが点灯しないだけで、目を凝らせば、真っ暗な中にうっすらとアイコンが見える。ハンダが溶けたような臭いがして、本体が異常に熱い。火事を心配するくらいであった。新しく届いたiMacの動作は全く問題がない。好ましい事ではないが、実際、初期不良は発生する。初期不良品の交換に際して、アップルの対応は丁寧だった。

発熱問題
 新iPadは、高負荷の動作時に、旧iPadよりも発熱するという報告があるようだ。確かに、新iPadは左下部分が温かくなる。旧iPadよりも温かく感じるかもしれない。肌寒い時に気持ち良いと思うくらいだ。しかし暫く置けば、すぐ冷たくなる。私は、高負荷のかかる3DゲームアプリやHD動画を長時間使う訳ではない。それらを長時間動かせば、さらに発熱するのかもしれない。しかし余りにも熱くなる様であれば、前述した様に初期不良かもしれない。早めにサポートへ連絡した方が良いと思う。

重量増加問題
 新iPadは、iPad2と比べて51g重くなった。手に取って比べてみれば、明らかに新iPadの方が重い。しかし私自身は、さほど気にならない程度の重量増加である。比べてしまえば明らかに重いが、新iPadだけを使い続けていたら、重さを感じなくなるのでは。重さの感じ方は、ユーザーによって様々な受け止め方があるだろう。微妙な重さが我慢出来ない方もおられるかもしれない。是非店頭で、御自分の手で試していただきたい。重さが気にならない方も多いのでは、と思う。

充電時間問題
 新iPadは、旧iPadと比べて明らかに充電時間を長く必要とする。 バッテリー容量がiPad2の1.7倍なので致し方ない事か…。就寝中に充電をしておけば、朝には何の問題もなく使用出来る。しかし、「充電アルゴリズムを直ちに修正する必要がある」という報告も出ている様だ。新iPadのACチャージャは、iOSが「充電済み」と表示したあとも1時間程度、10ワットの充電を継続する。iOSが“充電済み”と表示した時点では、充電は実際には90%しか完了しておらず、この時点で充電を止めると、バッテリ駆動時間はフル充電時と比べて1.2時間短くなると言うのだ。アップルは「新iPadは、iOSが“充電済み”と表示した時点までの充電で、バッテリ駆動時間として記載している10時間の駆動が可能だ」と説明している。この問題については、もう少し追いかけ続ける必要があるようだ。

2012年3月25日日曜日

「元素図鑑」を書籍、iPadアプリ、iPhoneアプリ 3種で楽しむ。

書籍, iPadアプリ, iPhoneアプリの画面サイズを比較

 今回は、コンテンツ「元素図鑑」を、書籍版iPadアプリ版iPhoneアプリ版 それぞれで分析してみたい。

 「元素図鑑」は、元素周期表を様々な角度から楽しませてくれるコンテンツである。「元素」とは、この世界の物質を構成する基本単位である。「元素周期表」は、性質の似た元素同士が並ぶように、決められた規則に従って配列した表である。普通なら無味乾燥になりがちな化学の周期表を、軽妙な語り口と豊富な写真の収録により、独自のヴィジュアル・エンターテインメントとして魅せる。収録された写真や文章は3種共通。同じ内容を書籍・iPad・iPhoneの3つの形態で魅せてくれる。


書籍(出版:創元社 ¥3,990<2012年3月28日現在>)
 最初に企画されたのは、この書籍版である。装丁も豪華。ページ数もボリュームがあり、重厚感が溢れている。書斎の本棚に燦然と輝く存在感。まるで、この本自体が美術品。書籍のサイズも大きく、迫力あるデザイン構成になっている。1つの元素を見開き2ページで、美しく印刷された写真群と共に紹介する。汚れや傷を付けずに、大切に保管しておきたくなるヴィジュアル・アート・ブック。優れた書籍は、所有する事そのものがワクワクする体験である。コレクション魂を大いに刺激する。欠点は、重くて機動性に欠ける事。工場での印刷や運送のコストが掛かるので、価格が4千円近くになってしまう事。


iPadアプリ(開発: Element Collection, Inc ¥1,200<2012.3.28現在>)
 「元素図鑑」は、iPadアプリでこそ最も楽しむ事が出来る。大きな画面サイズは、書籍版の迫力に引けを取らない。指先一つで、美しい写真群を回転させ、組み込まれた映像を楽しむ事が出来る。書籍版にはない、インタラクティブなヴィジュアル・アートを満喫。しかも、書籍版の重量を気にする必要はない。この世界観を何度味わっても、ページ自体に汚れも傷も付かない。工場での印刷や運送のコストが掛からないので、価格を1,200円に押さえる事が出来る。新iPad(第3世代)でも動くが、高解像度ディスプレイに完全対応した画質になっていない。故に 新iPad(第3世代)で、このアプリを動かすと、画像が微妙にボケけて見える。この様なアプリこそ、高解像度ディスプレイを活かしきって欲しいものだ。


iPhoneアプリ(開発: Element Collection, Inc ¥850<2012.3.28現在>)
 iPhoneアプリは、画面サイズが圧倒的に小さい。携帯性に優れているが、画面サイズが余りに小さい為に、ページ展開の構成が大幅に変更されている。(Webサイトでは、iPadでも動作すると表記されている。しかし、新iPadでは動かない。2012年3月28日現在。)ジャイロスコープを駆使したインタラクティブ性は楽しめるが、書籍版の迫力は望むべくもない。iPhoneアプリの方が低価格である。
 しかし、iPadアプリの方が、圧倒的な世界観を味わう事が出来る。この状況を体験すると、なぜスティーブ・ジョブズがiPadを生み出したのか納得出来る。iPadの画面サイズに大きな意味があるのだ。iPadの画面サイズでなければ表現出来ない世界観がある。iPhoneは、携帯性の高いリアルタイム情報収集端末である。iPadは、デザイナーやフォトグラファー、アプリ・クリエイターが創り出す芸術的世界観まで表現出来る端末である。iPadの様に大きな画面サイズであれば、レイアウト、色彩、ディティールの表現に意味を持たせる事が出来る。これまでグラフィック・デザインやエディトリアル・デザイン、映画制作、絵画等で培われた表現手法を応用出来る。
 アプリ・クリエイターが、iPadを通じてユーザーに投げかけるのは、単なる情報データではない。小説や映画、絵画等と同様に、独自のメッセージを内包した芸術作品である。


 iPadが、どんなに普及しても、紙に印刷された書籍が絶滅することはないだろう。書籍・iPad・iPhoneには、それぞれ特性があり、それぞれの存在意義がある。「元素図鑑」の様に同じコンテンツを3種で楽しめると、それぞれの特性が非常に分かり易い。書籍版・iPad版・iPhone版、それぞれに独自の素晴らしさがある。iPadが目指している方向は、紙に印刷された書籍の絶滅ではない。全く新しい、メディア体験の提供なのである。それは、書籍とは全く別のメディア体験であり、書籍というメディアの延長線上にあるものではない。

2012年3月24日土曜日

スティーブ・ジョブズが教えてくれる、行動経済学の重要ポイント2点。


 スティーブ・ジョブズの名言で、最も有名なものはコレだろう。「ハングリーであれ、愚かであれ」。これは、「貪欲になれ、利口ぶるな」という意味ではない。「“現状維持バイアス”に捕らわれるな、“同調バイアス”に捕らわれるな」という意味だろう、と 私は個人的に解釈している。“現状維持バイアス”と“同調バイアス”とは、行動経済学や認知科学で使われる用語である。新iPad(第3世代)は、発売週末の売上台数が300万台。初代iPadが300万台売れるには、80日かかった。iPad2と比べて、3倍の勢いで 新iPadが売れている、とのニュースを読み、「ハングリーであれ、愚かであれ」というジョブズの言葉を、再び思い出した。



現状維持バイアスとは?

 
 強力な動機がないと、人間は現状を変えない。物事が巧く回っていると感じていたら、新しい方法を試そうとは思わないのだ。利益と損失が同額であれば、利益から得る快楽より損失による苦痛の方を大きく感じる。故に人間は、リスクを回避する事を優先しがちである。この人間心理を損失回避性という。損失回避性が働いて、人間は新しい事に挑戦しにくい状態となる。新しい考え方も、受け入れ難い。現状で甘んじる傾向が強くなる。この偏向を“現状維持バイアス”という。

 ジョブズのいう「ハングリーであれ」とは、貪欲に利益を追求しろ、コスト削減を徹底しろ、損失を最小限に食い止めろ、といった利益至上主義とは対極にある世界観であろう。「ハングリーであれ」という言葉には、現状に甘んじる事なく、損失のリスクを覚悟の上で、新しい事に挑戦するべきであるという、彼の哲学が感じられる。利益を出す事は、もちろん重要だが、それだけではダメ。少しでも問題があるなら、諦めずに 世界をより良い方向に変える。その対価として利益を得ることが、ジョブズにとっては重要だった。

 iPadが発売されるまで、タブレット端末の市場を確立した者は皆無だった。初代iPadが発売される時。「こんな物は売れない」と、iPadを揶揄した者は、世界中にいたと思う。しかし、iPadは世界中で受け入れられ、世界を変え始めた。今ではアップル以外の、多数の企業がタブレット端末を発売している。

同調バイアスとは? 


 自分以外に、大勢の人間が周りにいたとする。 人間は、多数派の意見に、とりあえず合わせようとする傾向がある。物事の本質に興味を見出す訳でもなく、その場の「空気」に支配される。何となく多数派の意向に偏ってしまう。これを“集団同調性バイアス”という。協調性という人間の性向は、人間が社会という仕組みを維持する為に重要な役割を果たして来た。しかし、時として、多様性のある状況から、新しい物事が生み出される。周りと違う異端児は、世界をより良い方向に変える為に必要である。周りと違う意見・姿勢を貫く事は、非常に難しい。かなりの精神的エネルギーを必要とする。異端児は、批判に晒される事も多い。周りに理解されず、劣った人間であると決めつけられる事もある。

 ジョブズのいう「愚かであれ」とは、利口ぶらず、愚直に実直に、コツコツ自分の道を歩むという温もりのある視点とは対極にある世界観であろう。「愚かであれ」という言葉には、多数派の意見が間違っていたら、たとえ自分だけが とり残されても、周りの価値観と徹底的に戦い抜くという過激な姿勢が感じられる。自分の価値観を信じて、本気で世界を変える、という精神の戦闘モードが全開である。

 アップル以外の企業には、タブレット端末市場で戦う信念が感じられない。誠に残念だ。周りが発売するから、売れているみたいだから、何となく発売してみた…という惰性が感じられる。アップル以外の企業にも、独特のサービス、独特の端末を組み合わせた、世界を変える体験を味あわせて欲しい。多様性は世界にとって必要だ。多様な商品は、消費者の選択肢を増やし、新たな市場を生む。



 スティーブ・ジョブズは、言動が派手で、多くの批判にも晒されて来た。しかし、一貫して独特の世界観を魅せてくれた。大成功も大失敗も含めて、言葉と行動の整合性が保たれていたと思う。大失敗を踏まえた言葉は、説得力と強い信念を感じた。こんな人間的な魅力の溢れる経営者が、もう一度現れて欲しい。iPhone4Sでも、新iPadでも、ジョブズの人間的魅力を思い起こした。

2012年3月23日金曜日

新iPadの「重さ」と「厚み」が気にならない3つの理由。

 新iPadは、iPad2より51g重く、0.6mm厚い。51gとは、どれくらいの重さなのか? 我が家の晩御飯に使われる卵の重さを計ってみた。Mサイズの小さな卵1個で53gである。新iPadは、卵1個分 重くなった訳だ。新iPadを重いと感じるか。それは、ユーザーによって意見が分かれるだろう。新iPadの重さを残念に感じているユーザーの気持ちも分かる。しかし私自身は、新iPadの「重さ」と「厚み」は気にならない。実際に手に取って体験してみた実感である。新iPadには、卵1個分、重くなったとしても、手に取りたい理由もある。私にとって卵1個分の重さよりも、ずっと重要な事である。

1. 高解像度ディスプレイは、圧倒的に美しい。
 新iPadの高解像度Retinaディスプレイは、目が疲れない。これに慣れてしまうと、旧iPadのディスプレイは、目が疲れる。細かい文字がボンヤリして非常に見づらく感じてしまうのだ。高解像度に対応したアプリは、「iPhoto」「iMovie」「GarageBand」その他 がある。しかし、まだまだ数は少ない。「細川家の名宝」や「お江戸タイムトラベル」など、芸術品を味わい尽くす分野のiPadアプリで、高解像度を活かしきる作品が登場して欲しい。高解像度ディスプレイを活かしきるには、アプリ内の画像を全て高解像度のファイルに切り換える必要がある。しかし、これらの作業は、アプリ開発者及びクリエイターにとって面倒な作業ではない。新しい世界を切り拓く冒険であり、鳥肌が立つ様な達成感への第一歩なのである。

2. 高度な処理を必要とするiPadアプリが、これから登場する。
 例えば「iPhoto」は、初代iPadやiPhone3GSでは動かない。「iMovie」の予告編作成機能は、初代iPadやiPhone3GSでは使えない。今後は、より高度な処理をアプリで行うことになる。それに伴い、旧iPadでは動かないアプリ、動作の重いアプリが出て来るだろう。特に初代iPadのユーザーで、iPad2を所有していない方は、快適な動作環境を手に入れる絶好の機会であろう。デュアルコアA5X、クアッドコアGPUを使いこなすアプリが、これから登場するだろう。

3. アップルの革新性が失われていない事への共感。
 新iPadは、高解像度ディスプレイと クアッドコアGPUを搭載しながら、10時間動作する。iPad2のバッテリーは、25Wh。新iPadのバッテリーは、42.5Whである。つまり、新iPadのバッテリー容量は、iPad2の1.7倍もある。当然バッテリーの形状サイズも大きくなるはずだ。しかしアップルは、卵1個分の重量増加で納める事に成功した。この設計力に拍手を送りたい。アップルは、燃料電池を開発中だという話がある。この燃料電池は、1度充電すると1ヶ月間は充電が不要だと言うのだ。酸素など外部から取り込んだ物質を水素などと化学反応させることで継続的に電力を発生させる技術。この話が本当なのかは、まだ分からない。しかし、いつの日か、その答えが分かるだろう。今回アップルが魅せた設計力は、将来の燃料電池に期待を繋ぐものだ。新iPadを体験したおかげで、将来の技術開発に期待が繋がった。

 スティーブ・ジョブズが、この世を去って以来、「アップルの革新性は失われた…」という意見を目にする事がある。 新しいiPhoneにも、新しいiPadにも驚きがなくなった、という意見だ。しかし ジョブズ最大の発明は、iPhoneでもiPadでもなく「アップル」という企業そのものである。ジョブズは 自分がこの世を去るにあたり、アップルという企業が「アップルらしさ」を失わない為に様々な仕掛けを用意した筈である。とてつもなく細かい事柄に拘る人物なのだから。それが成功するかどうか、私は今しばらく見守りたい。

 次回は、スティーブ・ジョブズの名言について考えたいと思う。

2012年3月19日月曜日

iPadアプリ「細川家の名宝」。古の美を味わう電子絵巻。

Hosokawa Family
Eisei Bunko Collection
開発: CROSS BORDERS Inc.
¥600(2012.3.19現在/期間限定価格)
カテゴリ: ブック

 このアプリは、長さ20mの絵巻物(室町時代の物)を、原寸大で途切れる事なく閲覧する事が出来る。iPadの画面をスクロールすると、次々に絵巻の続きが現れるのだ。画像を拡大して細部を堪能する事も出来る。ユーザーは、アプリのペイント機能で禅画を模写し、Twitterへ投稿出来る。絵巻物に関する感想・新発見・質問をTwitterに画像付きで投稿し共有出来る。もちろん作品解説も楽しい。このアプリには英語版とフランス語版があり、海外のユーザーも楽しめる。


 もし印刷裁断された書籍で、この絵巻物を見るとしたら。長さ20mの絵巻物の連続性を体感出来ない。紙のページを捲るたびに絵は途切れてしまう。もし美術館で、この絵巻物を見るとしたら。開かれている一部分しか見る事が出来ない。手元で細部を確認する事も出来ない。それでも、美術館で実物のを絵巻物を見たいと思う。本物の微妙な色合い、画家の息づかいとメッセージは、実物の絵からこそ伝わってくる。実物の絵画でなければ体感出来ないエネルギーもある。

 このアプリがあれば、“美術館に行く必要がない”という訳ではない。美術館で、実物の絵巻物を最大限に味わう為に、このアプリがあるのだ。iPadによって、様々な角度から情報を吸収し、情報を生産発信し、情報を共有する。実物を前にして、それらを確かめる。それらによって、この絵巻物を隅々まで味わい尽くすのである。

 iPadという新しいデバイスは、作られた情報を 一方的に受け取るだけの道具ではない。情報を狩り、情報を生産し、情報を共有する為の道具だ。そして、この最新の電子機器が、古の絵巻物という閲覧フォーマットを現代に蘇らせた。絵巻物という形式は、古来より日本に存在するが、いつの間にか、忘れ去られたようだ。しかしiPadという最新デバイスには、この古の絵巻物形式が、殊の外マッチするのである。新しいものが古いものを蘇らせるのだ。

 このアプリは、新iPad(第3世代)で起動させると、不具合が発生するようだ。新iPadの解像度との整合性による問題だと推測するのだが。このようなアプリこそ、新iPadの高解像度ディスプレイで堪能したいものだ。早急なアップデートが望まれる。

(2012年3月23日現在 アップデートされました。新iPad<第3世代>に対応済みです。)

2012年3月16日金曜日

新iPadの、メッセージ無料刻印サービスを試した。


 新iPadが、本日 手元に届いた。事前予約しておいたのだが、無事 発売日である3月16日に到着。納品の遅れはなく、初期不良も発生していない。ディスプレイの傷等も問題はなかった。

 パッケージは、シンプルで、余分な要素を一切入れていない。ここまで潔いと、とっても気持ちが良い。アップルのデザイン美学は健在だ。パッケージにまで、拘りが貫かれている。アップルにとっては、ユーザーがパッケージを開ける瞬間も、iPad体験の一部なのである。


新iPadの背面上部
 新iPadの予約時に、メッセージの刻印サービスを申し込んだ。無料で受け付けている。画面上で テキストを入力し、 誤字脱字がないかを確認。後は、iPad本体が届くまで待つしかない。私は、自分の名前を刻印することにした。一体、どんな仕上がりになるのだろうか。申し込んだ後に、一抹の不安がよぎった。

 届いてみれば、仕上がりは上々。世界で1台だけのiPadが完成である。メッセージ刻印サービスを申し込んでも、納品が遅れる事はなく、発売日に手元に届いた。こういったサービスを無料で実施し、きちんと発売日に届けてくれる所が、アップルの心憎い所である。

 難を言えば、本体背面に若干ヨゴレがあり、 小さなゴミも付着していた。メッセージ刻印をする際に、工場で付いてしまったのだろうか。細かい所ではあるが、このような範囲まで、完璧にフィニィッシュして欲しいものである。ウェットティッシュで拭いたら、キレイに落とす事が出来た。

 画面の解像度は、ウワサ通りの圧倒的な美しさだ。しかし、新iPadでは、動作に不具合が発生するアプリもあるようだ。 各アプリの、早急なアップデートが望まれる。今しばらく新iPadを動かしながら、様々なポイントをチェックしたいと思う。

2012年3月15日木曜日

iPadアプリ「元素図鑑」。これはもう電子書籍ではない。

The Elements in Japanese
開発: Element Collection, Inc
¥1,200(2012.3.15現在) カテゴリ: ブック

 このアプリは、「元素周期表」というものを、iPadならではの方法で魅せてくれる。iPad独自の機能を、意味ある場面で効果的に結合させている。これぞ、iPadの基本的世界観を見事に体現したアプリである。

 「元素」とは、この世界の物質を構成する基本単位である。「元素周期表」は、性質の似た元素同士が並ぶように、決められた規則に従って配列した表なのだ。左から右へ、そして上から下へ行くほど 原子番号の大きな元素が並ぶ。原子番号とは「周期表」における順番・位置を表わしたものである。故に この表では 左右の並びにも、上下の並びにも意味がある。その並び方に元素の性質が表れているからだ。

 iPadというデバイスの場合、紙に印刷された書籍の様に 左右にページを捲るというフォーマットに限定されない。 空間感覚として、上下左右、自由自在に画面進行を設定出来る。元素周期表も、上下左右の空間感覚に意味がある。iPadと元素周期表の空間感覚は見事にマッチするのだ。 わざわざ、紙のページを捲るような画面デザインを創る必要はない。このアプリでは、周期表上の元素をクリックすると、直接 各元素の個別ページに飛べるし、そこから左右の近似性ある元素にページ移動する事も出来る。


 iPadの凄さは、紙に印刷された書籍の電子化という携帯性にあるのではない。ページを捲るという感覚から、人間を解き放つところにある。“電子書籍”という言葉は、既存の出版物を電子データ化してデバイスに取り込み、電車内や外出先で自由自在に読むという利便性や携帯性の魅力を纏っている。しかし、iPadアプリは、もはや電子書籍という枠を超えた世界に到達している。既存書籍の形式に捕らわれず、全く新しい情報伝達フォーマットを生み出せるのだ。指先で物体の側面を自在に動かし、静止画も動画もコンテンツに溶け込んでいる。必要に応じてネットワークにアクセスし、適宜更新された情報も入手出来る。視点は、画面内を自在に飛翔する。この様な 豪快なアプリを 電車の中でゆっくり味わう事は難しいだろう。周りの人々の視線は、iPadのディスプレイに釘付けになる。このようなアプリは、静かな場所に腰を据えて、ゆったりと味わいたい。

 「元素図鑑」は、iPad用アプリとiPhone用アプリの2種類がある。1つのアプリで両方に対応するのがユニバーサルアプリなので、「元素図鑑」はユニバーサルアプリではない。iPhone版の「元素図鑑」に関しては、別途 取り上げたいと思う。

2012年3月14日水曜日

iPadは、大きくなったiPhoneではない。

 アップルのApp Storeからアプリを入手する場合、その種類は 大きく3つに分類出来る。iPhone用のアプリ、iPad用のアプリ、ユニバーサルアプリの3種類である。ユニバーサルアプリとは、「iPhone」「iPad」「iPod Touch 」の全てに対応しているアプリである。ユニバーサルアプリは、それぞれのデバイスに対応したユーザーインターフェイスを自動的に表示する様に設定されている。つまりiPhoneの画面でも、iPadの大画面でも操作し易い様に調整されている。

 ここでは iPadアプリを さらに分類した上で、「iPadらしいアプリ」とは何かについて整理したいと思う。

有料・無料による分類
 アプリには有料で配信されるものと、無料で配信されるものがある。 アプリ市場全体の80%〜90%を アップルのApp Storeが占めている。その売上高は、Googleが運営している配信サービス Android Marketの約6倍である。内訳は、スマートフォン用でAndroid Marketの約4倍、タブレット用でAndroid Marketの約2倍(2012.1.13現在 産経ニュース)。アプリ配信のシステムが統合・整備されている事と、良質であれば有料アプリにも対価を支払うユーザーの存在は、iPadの強みである。アプリ市場がビジネスとして活性化するからこそ、良質なアプリも創り出されるのだ。先行するiPhoneアプリ程ではないが、iPadアプリ市場は、独自に成立している。

カテゴリによる分類
 アップルのApp Storeでは、iPhoneアプリとiPadアプリが、別々に提示される。iPadだけで動くアプリも存在する。App Storeでは、内容によってビジネス・教育・ゲーム・SNS等のジャンルに分類されている。この分類により、ユーザーは自分の求めるアプリへの到達を試みる。また「防災関連アプリ」等、特定のテーマでアプリの特集を編成している。20万以上という規模のiPadアプリが既に登録されている。

ユーザーインターフェイスによる分類
 iPadアプリは、ツールバーやタブバーといったインターフェイス設計の種類でも分類出来る。操作画面の基本形が数種類に定められる事により、様々なアプリで、操作方法が共通化される。その結果、ユーザーは新しいアプリに出会っても、直感的に操作方法を理解する事が出来る。これらインターフェイス設計の指針は、iPhoneとは別に「iPad Human Interface Guidelines」という文書にまとめられており、iPadアプリ開発者はこの指針に則して統一性を守る事を推奨される。

 iPadは、単に大きくなったiPhoneではない。まず、iPad独自のユーザーインターフェイス指針に則している必要がある。最も重要なのは、iPad独自の高解像度・大画面 をベースとして、デバイスの角度を高精度で計測するジャイロスコープ、GPS、カメラ、瞬間起動 等、各機能を意味ある場面で効果的に結合させて生み出す一連の世界観。それがiPadである。故に、ユニバーサルアプリは、iPadを最大限に活かしているとは言い難い。世界観は、iPadの特徴を活かしきる様に設計されたアプリでなければ体感出来ない。それは、特定カテゴリのアプリに限定されたものではなく、全カテゴリのアプリにとって共通な基本要素だ。故に「iPadらしいアプリ」とは、特定のカテゴリや分野(例えば電子書籍など)に象徴されるものではなく、各カテゴリに於いて この基本的世界観を見事に体現したアプリであると言える。

 今後は、個別のアプリの分析に入って行きたい。まず最初のアプリとして「元素図鑑」を取り上げたいと思う。

2012年3月11日日曜日

ジョブズが iPadの画面サイズに拘る理由。

画面サイズの比較
 スティーブ・ジョブズは、デバイスの画面サイズに明確な指針を持っていた。2011年10月18日 アップル決算発表の際、以下の様な主旨の発言をした。他社から多数登場した、 画面サイズ 7インチのタブレットを意識しての発言だ。

    • 画面サイズが7インチのiPadは発売しない。
    • スマートフォン・アプリとタブレット・アプリは別の物である。
    • タブレット・アプリには9.7インチ以上の画面サイズが必要である。
    • 画面サイズ 7インチは、スマートフォンとして大きすぎる。

         上記の発言内容を分析すると、アップルは、デバイス単体で商品戦略を練り上げていない事が分かる。デバイスとそれに対応したアプリを一体化して考えているのだ。アップルは、iPhone用のアプリとiPad用のアプリを明確に区別している。

         iPhoneは片手での操作を想定し、iPadは両手での操作を基本としている。iPhoneは移動中でも手軽に操作出来る携帯情報端末である。街を歩きながら、電車内で吊り革につかまりながら、片手で頻繁に使用可能だ。ハードもソフトも片手で操作ボタンを駆使出来る様に設計されている。iPadは 大きな画面サイズによって、迫力ある画面構成を多様に表現する。静的なテキスト・画像だけではなく、動的な映像、アニメーション、サウンドを効果的に組み合わせる事が可能だ。iPadは 基本的に ある場所での滞留状態で操作を行う。持ち運びは可能だが、ある場所に留まっての操作により適している。リビングやベッドルーム、オフィスのデスクで、あるいはカフェテラスなどに留まって使用するイメージだ。iPadは片手では操作出来ない。アプリのコンセプトも、画面デザインも、それを踏まえた上で構築しなければならない。

         アップルは かなり初期の段階から、iPhoneでは対応出来ない、個性的アプリのイメージを発想したのだろう。それらを実現させる為には、大画面が必要だ。それ故に、iPadというデバイスを開発した。アップル以外の陣営は、スマートフォン・アプリとタブレット・アプリの区別が明確化されている状況が伝わって来ない。持ち運びに便利なタブレット… という形状的理由を最優先して7インチ・タブレットを開発しているのだろうか。

         それでは、iPadらしいアプリとは、一体どんなものなのか? 今後は、それを考察して行きたいと思う。

        2012年3月10日土曜日

        新iPadが 期待外れではない理由。

         第3世代となる 新型iPadが発表された。形状デザインは、従来のiPad2と殆ど変わらない。斬新な形状デザインやミニiPadの登場、驚愕の新機能を期待していた消費者にとっては、肩透かしだったかもしれない。しかし私は、画面サイズを変更しなかったことにこそ、アップルの凄みを感じるのである。

          形状デザインや画面サイズを変更しない理由には、コストの問題もあるだろう。形状デザインをガラリと変更すれば、工場の生産ラインも一気に変更しなければならない。それはコストの増大に直結する。しかし、画面サイズを変更しない事に大きなメリットがある。アプリの開発者に過剰な負担をかけなくてすむのだ。

         もしiPadの画面サイズを変更されたら、世界中のアプリ開発者はどうなるのか。新しい画面サイズに合わせて各々のアプリの画面デザインを変更しなければならない。アプリの操作画面のボタン配置などは、現状の画面サイズに最適化させて、レイアウトしているからだ。もし画面サイズの変更が大幅でなくても、レイアウト調整は必要になる。既存の全アプリで、それらの作業を実施する事は、大変な労力を必要とする。アプリのアップデートにも、相当な時間を必要とするだろう。それは、アプリのユーザーにとっても不幸な事だ。

         アップルがデバイスだけを扱う企業であったら、躊躇なく形状デザインを変更するかもしれない。そうしなければ新製品の存在意義が薄れるだろう。しかしアップルは、オペレーティング・システムも、デバイスも、開発ツールもアプリの配信システムもトータルで扱う企業である。アップルが売っているのは、これらの要素全体が生み出す「体験」なので、 全体を俯瞰して戦略を立てる事が出来る。

         アップルがiPadの画面サイズを変更しないことに、アプリ開発者への独特の配慮が感じられる。アップルとアプリ開発者の協働によって、新しい体験価値を創り出そうとする強い意志を感じるのである。今回の新型iPadの発表に合わせて、オペレーティング・システムのiOS、そしてアプリ開発ツールのXCODEもヴァージョン・アップされた。デバイスの外面的な形状デザインを変更しなくても、操作性やアプリ開発の効率化という奥深い部分で改訂を進めている。

         デバイスの形状デザイン変化は、消費者に伝わり易い。 外見を見た瞬間に、全てが分かる。しかし OSや開発ツールの変化は、消費者に伝わりにくい。外見だけでは実体が分からず、使ってみないと実感がわかない。今回、ディスプレイの解像度が著しく向上した事は、とてつもない効果をアプリにもたらすだろう。でも、それが直ちに目に見える形で現れる訳ではない。アプリ開発者が、改訂版のOSや開発ツールで新しいアプリを創り出すのを待たなければならない。それには、今しばらく時間を必要とする。

          次回は、そもそもiPadが、なぜ現在の画面サイズになったのかを考察してみたいと思う。

        2012年3月7日水曜日

        スティーブ・ジョブズは「芸術家」である。

         スティーブ・ジョブズは、経営者であると同時に芸術家である。デザインこそアップルの強力な武器である事は 誰もが認めるところだろう。その美しさは、もはや工業デザインを超えて、美術品のようだ。ジョブズは、会社員・経営者でありながら、同時に芸術家になれることを我々に教えてくれた。企業が特別な存在になる為には、つまり競合他社と一線を画した強烈な魅力を放つ為には、芸術的な感性が必要であることを示した。重要なのは、経営感覚と芸術的感性のバランスである。

         ジョブズの仕事ぶりは、映画監督の行動に重なり合う部分が多い。

         映画監督は、自分で物語やセリフを創る訳ではない。それを創るのは小説家や脚本家の仕事である。映画監督は、自分で撮影する訳ではない。撮影するのはカメラマンである。自分で演技する訳でもない。演技するのは役者である。映画監督の仕事は、個別の実作業をすることではない。目指すべきゴールを明確に伝えて、個別に細かな指示を出し、関係スタッフを一つの方向にまとめて、個々のスタッフの力を最大限に引き出すのが仕事である。優れた映画監督の作品は、ヴィジョンやメッセージがハッキリ打ち出されている。だから、黒澤明が監督した映画は「黒澤明の作品」である。数百人単位のスタッフが動いても、映画監督の個性とリーダーシップが際立って感じられる。それが演出という作業である。映画監督が演出しなければ、スタッフは統一した見解を持つ事が出来ず、一貫性のない曖昧模糊とした作品となってしまう。そうなれば映画が商業的に成功することは難しい。

         ジョブズは、自分でアプリケーションのプログラムを組む訳ではない。自分で工業デザインをする訳でもない。自分でサプライチェーンを構築する訳でもないし、品質管理もしない。彼の仕事は、目指すべきゴールを明確に伝えて、個別に細かな指示を出すこと。そして 関係スタッフを一つの方向にまとめ、個々のスタッフの力を最大限に引き出す事である。結果、アップルから生み出された様々な製品には、ジョブズのヴィジョンやメッセージがハッキリ打ち出されている。多くの消費者を虜にする個性と美学がある。その姿はまるで、歴史に名を残す映画監督(演出家)のようだ。

         ジョブズは、経営感覚と芸術的感性のバランスが秀逸だったと思う。経営感覚を「分析」、芸術的感性を「直感」と短く表現するならば、その間を繋ぐのは「技術」である。利益追求のため計算的でありすぎると、直感の価値を見失う事がある。感性に頼りすぎて、戦略構築や計量的・分析的な裏付けを怠れば、大きな赤字を生む可能性が高まる。しかし、技術的素養、最新の技術開発動向の把握がなければ、そもそも直感も分析も活きたものにはならないだろう。ここで言う技術的素養とは、プログラマーなどの技術者が実際の開発に必要とする、現場での細かな技の数々の事ではない。プログラマーなどの技術者と コミュニケーションするために必要な準備が整っているか、という事である。映画監督が撮影カメラの操作方法を細かく知っている必要はない。実際に操作するのはカメラマンだからだ。しかし、カメラマンに指示する為には、カメラアングル、カメラワーク、露出や色彩の効果などの関連知識の準備は必要である。ジョブズは「分析」「直感」「技術」のバランスを絶妙に維持していた。

         大抵の映画制作スタッフは、優秀な映画監督(演出家)と仕事をしたいと熱望しているだろう。大規模な映画は、数百人単位でスタッフが動かなければ作り上げる事は出来ない。全てを一人で創り上げる事は出来ないのだ。各スタッフの力が効果的に一体化した時、個々のスタッフの仕事も、それぞれ輝きを放つものになる。映画制作スタッフは、明確な理念を打ち出す映画監督と組みたがっている。

         iPadやiPhoneのようなデバイスも、多数のスタッフが開発から販売まで関わることになる。全てを一人で創り上げる事は出来ない。個々の外部クリエイターのアプリ開発も、ハードのスペックやiTunesのような配信と利益分配システムがあってこそ成り立つ。各スタッフの力が効果的に一体化した時、個々のスタッフの仕事も、それぞれ輝きを放つものになる。その為には、明確な理念を掲げ、全身全霊を懸けてそれを形にしようとする演出家・経営者が必要なのである。しかも技術動向の先を読まなければならない。ジョブズは ブレることなく、それを実行した。理念もあり、芸術を愛し、技術的素養もあった(技術者ではないが)。だからこそ 世界のクリエイターは、ジョブズが生み出したアップルを愛してやまない。

         今後は、ジョブズが なぜiPadの画面サイズに拘るのか、そして個別のiPadアプリの分析・考察に入って行きたいと思う。

        2012年3月6日火曜日

        アップルは「体験」を売り、ソニーは「端末」を売る。

         iPad 最大の魅力とは何か? それは、個性的で味わい深いアプリを楽しめる点にあると、私は考える。至高のアプリ群が存在しなければ、iPadは、ただの持ち運べるディスプレイである。このデバイスの形状とスペックだけ眺めていても、思い浮かぶ用途は限られる。電子書籍専用端末か、Webブラウジングに適した端末であることくらい。しかし、世界中のクリエイターが開発したアプリをiPad上で動かすことにより、iPadは消費者の想像を超えた光景を眼前に登場させる。

         ハードとアプリの一体化した世界観、その体験こそ、アップルが販売している商品である。他社のタブレット端末と iPadとの差異は、そこにある。iPadとソニータブレットのTVCMを比較すると、その違いが際立つ。

         iPadの日本発売時に放送されたTVCMには、画面内に様々なアプリが登場する。ここに世界観が凝縮されている。iPadの形状とスペックだけ分析しても、その本質は見えない。iPadの形状とスペックに統合された、芳醇なアプリ群を擁していることがアップルの強みである。アプリの質が重要なのだ。このCMでは、ハードを見せるのではなく、画面内のアプリと新しいライフスタイルを消費者に強くアピールする。


         一方で、ソニータブレットの日本発売時に放送されたTVCMは、iPadのCMとは対極的である。その画面内に具体的なアプリは登場しない。オーロラ(?)のような光が、ウネウネしているだけである。これでは、このデバイスによって何が出来るのか、消費者の想像力を刺激しない。情報を出し惜しみする場合ではないのである。おそらく ソニー経営陣にも、このデバイスで何が出来るのか 斬新なイメージが浮かばないであろう。ソニーには、このタブレットだけが与えてくれる「新しい何か」を、より具体的に提示して欲しい。誠に残念だ。このCMで、アピールされているのは、手にフィットする形状だけである。


         アップルは 世界中のクリエイターと協働し、これまでと違うメディア「体験」を提供することを目指している。ソニーが目指しているのは、映画・音楽・ゲームなど様々なコンテンツにアクセス出来る、高度な多機能「端末」を提供することである。

         それでは、なぜアップルは 世界中のクリエイターを惹き付けてやまないのか? 次回は、その点について考える。

        2012年3月5日月曜日

        iPadは「革命」なのか? 「幻想」なのか?


         iPadは、エンターテインメントやライフスタイルを激変させる「革命」なのか? それとも一時的なブームに過ぎず、やがては消滅してしまう「幻想」なのか? どちらの方向へと進んで行くのだろう。私は、世界中のクリエイターが創り出すアプリこそ、その鍵を握っていると考える。

         レコード会社内で 17年間 音楽のグラフィック・デザイン(CDジャケット, 広告, ポスター, 販促物全般)の制作を担当。その後、私は、2010年よりフリーランスのクリエイターとして活動中である。iPadが示した世界観は、私の人生に新しい駆動力を与えてくれた。iPadの登場を目の当たりにして、感性の再起動を決意した。クリエイターとしての、これまでの経験に基づき、アプリ開発も視野に入れることにしたのだ。元々アート・ディレクターであり、グラフィック・デザイナーであるから、アップルとの付き合いは17年という歳月を超える。思えば、アップルにとって苦難の時も復活の時も、私の仕事道具はMacであった。Macでなければ、グラフィック・デザインを出来ない時代があった。

         このブログのタイトルに「文化論」という文字を付けたが、使用する言葉の厳密な定義付けや 論文調の語り口には拘らない。私なりに、iPadが生活や文化に与える影響を考察したいと思う。iPadの最新ニュースについても、随時 言及したいと考えている。