2012年3月25日日曜日

「元素図鑑」を書籍、iPadアプリ、iPhoneアプリ 3種で楽しむ。

書籍, iPadアプリ, iPhoneアプリの画面サイズを比較

 今回は、コンテンツ「元素図鑑」を、書籍版iPadアプリ版iPhoneアプリ版 それぞれで分析してみたい。

 「元素図鑑」は、元素周期表を様々な角度から楽しませてくれるコンテンツである。「元素」とは、この世界の物質を構成する基本単位である。「元素周期表」は、性質の似た元素同士が並ぶように、決められた規則に従って配列した表である。普通なら無味乾燥になりがちな化学の周期表を、軽妙な語り口と豊富な写真の収録により、独自のヴィジュアル・エンターテインメントとして魅せる。収録された写真や文章は3種共通。同じ内容を書籍・iPad・iPhoneの3つの形態で魅せてくれる。


書籍(出版:創元社 ¥3,990<2012年3月28日現在>)
 最初に企画されたのは、この書籍版である。装丁も豪華。ページ数もボリュームがあり、重厚感が溢れている。書斎の本棚に燦然と輝く存在感。まるで、この本自体が美術品。書籍のサイズも大きく、迫力あるデザイン構成になっている。1つの元素を見開き2ページで、美しく印刷された写真群と共に紹介する。汚れや傷を付けずに、大切に保管しておきたくなるヴィジュアル・アート・ブック。優れた書籍は、所有する事そのものがワクワクする体験である。コレクション魂を大いに刺激する。欠点は、重くて機動性に欠ける事。工場での印刷や運送のコストが掛かるので、価格が4千円近くになってしまう事。


iPadアプリ(開発: Element Collection, Inc ¥1,200<2012.3.28現在>)
 「元素図鑑」は、iPadアプリでこそ最も楽しむ事が出来る。大きな画面サイズは、書籍版の迫力に引けを取らない。指先一つで、美しい写真群を回転させ、組み込まれた映像を楽しむ事が出来る。書籍版にはない、インタラクティブなヴィジュアル・アートを満喫。しかも、書籍版の重量を気にする必要はない。この世界観を何度味わっても、ページ自体に汚れも傷も付かない。工場での印刷や運送のコストが掛からないので、価格を1,200円に押さえる事が出来る。新iPad(第3世代)でも動くが、高解像度ディスプレイに完全対応した画質になっていない。故に 新iPad(第3世代)で、このアプリを動かすと、画像が微妙にボケけて見える。この様なアプリこそ、高解像度ディスプレイを活かしきって欲しいものだ。


iPhoneアプリ(開発: Element Collection, Inc ¥850<2012.3.28現在>)
 iPhoneアプリは、画面サイズが圧倒的に小さい。携帯性に優れているが、画面サイズが余りに小さい為に、ページ展開の構成が大幅に変更されている。(Webサイトでは、iPadでも動作すると表記されている。しかし、新iPadでは動かない。2012年3月28日現在。)ジャイロスコープを駆使したインタラクティブ性は楽しめるが、書籍版の迫力は望むべくもない。iPhoneアプリの方が低価格である。
 しかし、iPadアプリの方が、圧倒的な世界観を味わう事が出来る。この状況を体験すると、なぜスティーブ・ジョブズがiPadを生み出したのか納得出来る。iPadの画面サイズに大きな意味があるのだ。iPadの画面サイズでなければ表現出来ない世界観がある。iPhoneは、携帯性の高いリアルタイム情報収集端末である。iPadは、デザイナーやフォトグラファー、アプリ・クリエイターが創り出す芸術的世界観まで表現出来る端末である。iPadの様に大きな画面サイズであれば、レイアウト、色彩、ディティールの表現に意味を持たせる事が出来る。これまでグラフィック・デザインやエディトリアル・デザイン、映画制作、絵画等で培われた表現手法を応用出来る。
 アプリ・クリエイターが、iPadを通じてユーザーに投げかけるのは、単なる情報データではない。小説や映画、絵画等と同様に、独自のメッセージを内包した芸術作品である。


 iPadが、どんなに普及しても、紙に印刷された書籍が絶滅することはないだろう。書籍・iPad・iPhoneには、それぞれ特性があり、それぞれの存在意義がある。「元素図鑑」の様に同じコンテンツを3種で楽しめると、それぞれの特性が非常に分かり易い。書籍版・iPad版・iPhone版、それぞれに独自の素晴らしさがある。iPadが目指している方向は、紙に印刷された書籍の絶滅ではない。全く新しい、メディア体験の提供なのである。それは、書籍とは全く別のメディア体験であり、書籍というメディアの延長線上にあるものではない。

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